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春の劇場29「ハルメリ2013」座・高円寺 2013/3/26

Photo 2007年度の日本劇作家協会新人戯曲賞を満場一致で受賞した作品ということで、見逃すことはできない。
演出・プロデュースをされた丸尾聡さんによると、作者の黒川陽子さんに2013年度版としての書き直しをお願いしたとのことで、タイトルは『ハルメリ2013』となったとのこと。

滑稽さに笑いながら戦慄を覚える

会場は円形劇場を思わせる作りで、本来の客席の中央を花道風にして2分割し、舞台上の両袖と、舞台奥の左右にも客席がある。つまり、舞台を囲む6ブロックの客席があり、どこに座っても良い。
私はあえて舞台上で最も舞台奥に近いDブロックの端席に陣取ってみた。
「ハルメリ」という謎の概念に惑溺し、嫌悪し、依存し、我を忘れ、冷めた態度を取り、多くを求め、飲み込まれいく30人ほどの老若男女の物語。
つかみどころがない何か=「ハルメリ」が流行する怖さにぞっとし、「ハルメリ」に利用されたり「ハルメリ」を利用しようとする人間たちの滑稽さに笑いながら戦慄を覚えた。
非常に鋭い切り口と観察眼で成立している優れた戯曲と、アイディアあふれる演出に引き込まれた。

2013年度版の失策?

しかし(これは2013年度版で書き足されたことだろうが)Twitterをそのまま盛り込んだクライマックスシーンで、それらが薄まってしまった。
「ハルメリ」についての討論番組が変質して奇妙なアイドル選別番組になり、視聴者がインターネット経由で選別に参加するという設定で、ステージ上と花道上のスクリーンに視聴者の意見が表示されると共に読み上げられ、アイドルつぶしの残酷な進行と絡み合っていく。
緊迫感に魅了されるはずが、Twitterというサービス名が実名で登場し、スクリーン上にTwitter特有の読みづらい書き込み形式がそのまま表示され、RT(リツイート)やフォロワー数などのTwitter専用用語が叫ばれだすと、私はどうにも違和感を感じた。フォロワー数はまだしも、RTという用語は(Twitterのヘビーユーザ以外には)非常にわかりづらい。一般にわかりづらい用語が連用されると、私はそれが心に引っかかって集中しづらくなる。
そこに、Twitterの本人確認性の弱さ(成りすまし可能性)を象徴する意味なのか、死亡したと言われていた「ハルメリ」批判派評論家の発言がスクリーン上に現れた。しかも、これを読み上げる本人が舞台上をうろつきはじめたため、これが実は生きていた本人なのか、成りすましの象徴なのか、幽霊なのかわからくなって、私はなおさら混乱してしまった。
舞台奥に近い席にいることが幸いして、ステージの向こう側の本来の客席を埋めた観客の様子を伺うことができたが、この長いシーンが終わりに近づくに従って、なんだか疲れた顔が急激に増えたように感じられた。
舞台はこの後も数シーンあるのだが、客席にほのかに疲労感が漂っている気がして、私はなんとなく冷めてしまった。

Twitterをそのまま、説明なしに盛り込んだこと

とはいえ、休憩なし2時間の舞台を全力で演じ上げた30人近い演者たちの熱気に再度引き込まれ、最後まで楽しんだことは言うまでない。
しかし、終演し客電が点いてみると、やはり、満員の客席の中には少し疲れた顔が並んでいるようにみえた。
私見だが、この「疲れ」の原因の一つは「Twitterをそのまま、説明なしに盛り込んだこと」にあったのではないだろうか。
前述のとおり、RTやフォロワー数などはTwitterの専用用語であり、決して一般に認知された言葉とは言えない。しかも、Twitterは不連続な「つぶやき」の集まりであり、嘘、成りすまし、冷やかし、誇張などがそのまま垂れ流される(黒川さん本人も書いているように)掴みどころのないシステムだ。
使ったことがある人でもわかりづらく、使ったことがない人には何だかわからないシステムを、無加工で舞台に取り込むべきではなかったように思う。

『相棒』の「フェイスグッド」と比べてしまう

実は、私はこの日の昼間、映画館で『相棒 X-DAY』を観ていた。これまた怖い映画で、情報セキュリティスペシャリストの端くれでもある私は随所で冷汗を流しながら観ていたのだが、相棒シリーズの脚本の上手さで、情報システムやコンピュータセキュリティの難しい用語や概念が上手に説明されており、一緒に観ていた家内も難しさを感じることなく「怖かったね」と言っていた。
『ハルメリ2013』を観た帰り道、ふと思い出したのが、この『相棒』のTVシリーズ11の17話で事件の背景として登場した「フェイスグッド」である。
もちろん、これは実在のコミュニティシステム「Facebook」のパロディだが、視聴者にわかりやすいように改変されており、加えて主人公の杉下警部と同僚の会話の中に、システムの仕様や用語の説明が適度に盛り込まれているので、視聴者は本筋を追うことを妨げられずに「フェイスグッド」の仕組みも理解できた。
黒川さんが2013年版の『ハルメリ』をつくる上で試みたというTwitterの取り込みは、非常に冒険的なチャレンジであり、その成否は私には判断できない。しかし、一案として、Twitterをベースにした架空のシンプルなシステムに置き換える手もあったのではなかろうか。
自称劇作家の端くれでもある私には、Twitterのようなソーシャルネットワーキングシステムを現代の象徴として戯曲に取り込むこと、これは魅力的だが扱いの難しい「諸刃の剣」であることを考えさせられた。

words by mau(HIRANO Masaki)

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